2008.2.4

SAPの仕事

有川雄二郎

 

 SAPでは、今、社員を募集しております。
 半年前に募集して、何人かに入社をしてもらったのですが、今はもう居ません。「いつかない」という現象が、小社には昔からあるようです。なぜいつかないかというと、一つは私の人格、もう一つは安給料、それに長時間労働、どうもここいらが原因ではないかなー、と考えております。このSAP三悪については、私だっていやで、いやで、長いこともてあましているのです。でも、私はこの環境に何十年もなんとか受け入れているのです。そこを考え、新入社員は半年やそこらでめげないで欲しい、と思うのです。君たちがどこに行こうと、どっちみち、世の中にはもっと悪いことが待ち受けているのですから。どうも最近の若い者は、あきらめが悪い、といえるのではないでしょうか。
 上記三悪以外に、社員がわが社にいつかない理由に、「期待はずれ」ということがあるようです。素晴らしいアーティストの、ロマンティックなイベントをやっているのだから、きっと、お勤めも、都心のオフィスで、日当たりの良い、観葉植物の並ぶ白っぽいインテリアに囲まれて、窓からは青空の下に新宿高層ビルが小さく並んで見える、そこで流行のファッションのスタッフがアーティスティックな話をしているような情景を、新人は期待しているようです。
どぶ川沿いにあるわが社は、実際は汚いオフィスです。廊下にはトイレ臭が充満しており、事務所を開けると、机の上には乱雑に書類雑誌が積まれ、いろんなシミのついた床には、ゴミ、廃棄物、汚物、排泄物、毒物などが無造作にころがり、「テレビで見た天洋食品の工場のほうが数段、清潔である」と出入りの宅急便配達人は断言し、私たちはそう言われても、薄笑いを浮かべながら、「まさかねー」力なくつぶやくのみなのです。
また、業務も「企画」とか「プレゼンテーション」とか格好のよいことはごく少なく、基本の業務は、涙ながらの言い訳、土下座の謝罪、くどくしつこいお願い、すがりついて離れない値下げの交渉、居留守の応答などとなるわけです。見かけがかっこういいからといって、その仕事が快適だとは限らないのです。沖縄のリゾートホテルに遊びに行くのと、そのホテルの客室係となって働くのとは、まるで違うことなのです。そこで、入社の際、「期待はずれ」だけは無いように(他の三悪は必ずあるけれど)、SAP業務の実態を触れておきたいと存じます。
私ども、イベント屋、企画会社、プロモーター、興行会社など、いろいろな呼ばれ方をされます。出演者様、アーティスト様などにさまざまに、お願い申し上げ、その麗しい舞台にお客様も大変喜ばれて私どもも世渡りがかなうという、冥利に尽きる次第ですが、それを取り仕切る業界のほうはいかがかと申しますと、実に苦しく、また醜いことの多いことでございます。
いったい、イベント屋の仕事には大別して2種あり、いわく「手打ち興行」、いわく「下請けイベント(マネジメント)」でございます。下請けというのは、国とか自治体とか企業とか、主催者が他にいて、私たちはその指揮に従ってイベントの制作をする仕事です。手打ちというのは、SAP自体が主催者になって、すなわちチケット収入だよりのイベントです。
手打ちのほうが、自己責任であって、潔くて男らしく、また誰に文句言われるものではなく、金勘定にもあと腐れなく良いのです。が、なかなか儲からないという欠点もあります。興行が儲からない理由は、満員になったと喜んでも2000人のホールならそれ以上はいらないわけで、CDを売るように、または映画を公開するように、事務所が寝てる間に10万枚も100万枚も売れて、青天井で無限に儲かるということが無いからです。すぐ上限がきてしまう。それでいて、入らないときは本当に入らない。笑っちゃうくらい入らない。そして、笑っちゃうリスクがあるのです。つまりライブ公演は、利益限定、損失無限大、という構造があるのです。
それに準備期間と準備工程に非常に手間がいる。企画段階から言うと1年かけて、野外イベントだとステージ、音響・照明設備、客席から楽屋まで、つまり仮設とは言いながら、一夜のためのホールを設計し造りこみ、設営業者にはなるべく安くと頭を下げ、また出演者様にあまり音響照明などにこらないようにお願い申し上げ、新聞テレビなどに広告をうち、新聞社様にはお安くして、また無料で記事で取り上げて、と頭を下げ、お客様にDMをうち、野外だと消防・警察などに届けを出し(文化財で行うときは文化庁などの許可を得る)、会場の近隣にご迷惑をおかけします、と挨拶回りをして、雨が降らないように身を慎み社寺に頭をたれ、電話注文でチケットを売って、発送し、遅れたりしたお叱りには電話の前で深々とお辞儀をし、当日になればバイトの受付け会場整理員を声をからして指揮をし、入場者様の苦情に対応し処置をし、処置が出来ない問題は深々と謝罪し、そもそもステージで何が行われているかなんて、分からないのです。
  あちこちに頭を下げて、つまり社会の皆さまのお慈悲で我々は生きることが出来る、そのことが実感でき、人間が出来てきます。人間が出来ても、お金が出来ない、そこが苦しいところで、SAPの今後の課題なのです。手打ちの話は、このように、説明をするだけでも、いやになってしまうので、この辺りにして、次回は下請けイベントの仕事の進め方のお話を申し上げます。