2008.3.25

期待の新人

有川雄二郎

 

 ご心配をかけていましたが、わが社の新入社員が決まりました。
 最初は私が20人ぐらいと会い、そのうちで7~8人よさそうな人がいた。
若い新卒の女性で、容姿は何ですけど、しっかりもののように見え、体も頑丈そうで、可愛い子よりも質実剛健がいいと思い、心が大いに動いたが、振り返ってみると、35年前、妻と結婚したときもそういう観点で伴侶として選び、これが大失敗をしたのだ。若くして既にしっかりもの、という女性は、年をとると一体どうなるか、考えてみれば分かることです。
 また、次に、やはり、普通私が「別の意味で美人ですね」、とか「違う意味で美人ですね」とか言っているタイプの女性が来て、ちょっと朝青龍似の固太り、空手2段、片手で30キロは普通に持って歩けるという、私は同性・異性を限らず暴力的な雰囲気の人柄にむやみに迎合する癖があり、すぐにでも来てください、と言いそうになった。
 私は実に暴力に弱いのであって、昨年11月、姫路城でコンサートをしたとき、コンサートの前日、リハーサルが終わった夜半に、遠くのほうで、酒に酔った様子で、「何で市民の公園を独占してコンサートをやるのか」とがなりたてている、派手なジャンパーを羽織っている男がいた。そもそも、姫路弁がこわい。がたいも大きそうだ。警備会社のスタッフが対応しているが、「うるせーっ、責任者を出せ」とおさまらない。
 いやな感じになってきたので、スタッフ・テントに入ってお茶でも飲んでようとしたら、あろうことか、警備会社のスタッフが、「責任者はあそこにいます」と、私を指差したのだ。ひどい警備員だ。後で文句を言ったら、警備料を私が値切ったからだという。でも、値切らなくとも私を裏切ったと思う。そういう顔をしていた。
  さて、そのがたいの大きな男は、勇ましく、「おう」とか言って、私に早足で近づいてくる。 思うに、私は責任者ではあるけれど、たいした責任者ではない。たとえば、石原都知事とか吉兆のおかみとか、ああいう人たちのほうが、いかにも堂々の責任者という感じがする。私みたいな小物の責任者に係わらないで、文句はそっちのほうに言ってもらえないか、とかグチャグチャ考えているうちに、その男は私の目の前に立っており、酒臭い息を吹きかけ、「貴様」とか言いながら私の胸を押し、それだけで私は恐怖により芝生に倒れてしまった。3秒ぐらい倒れていて、よろよろと立ち上がったが、また胸をつかれた。また、3秒ぐらい倒れてよろよろ立ち上がったら、また胸をつかれ、また倒れ、よろよろ立ち上がる。
 そうしたら、その男は、「お前、力も入れてないのに、わざと倒れているんじゃないか」といっそう怒りに火を注いだ。実は、私は、熊に襲われたときのように、死んだふりをして難を避けようとしていたのだが、それを説明すると余計怒られそうなのでやめた。結局、朝日新聞の下重さんとSAPの古参女子社員が出てきて、飲み屋のおかみが酔っ払いをなだめるように、うまーくなだめてくれて助かった。
 話は面接に戻りますが、その空手2段の女性が社員なら、上記のような場合には安心だと考えたが、でもその暴力の矛先をこちらに向けられたらまずいことになるのだ。
 そんなことで迷いに迷い、さらにもう1回面接をし、それでも迷い、他人に見てもらおうと朝日新聞の恩田さんや民族芸術交流財団の三隅さんにも会ってもらい、しかし、人により言うことが違い、もう1回面接をして、そうしているうちに応募者は他の会社から内定をもらうようになり、一人、二人と辞退をしていき、空手2段も別会社に決まり、応募者が目減りをし、気がついたら二人しか残っていなかった。聞いたらば、この二人は受験したどこからも内定をもらえなかったという。
 さすがに私がこれ以上逡巡し、面接を繰り返していると応募者が誰もいなくなってしまうので、いわば残った二人に決めた。決して、喜んできめたわけでもないのだ。
 そういう事情で、「最後まで選び抜かれた」二人というか「最後まで選ばれなかった」二人が、SAPの新入社員となったのです。ご期待ください。