2012.10.10

恍惚の面接

有川雄二郎

 

唾棄すべき無気力(男子)、嘔吐がこみ上げる尊大(女子)、全身が麻痺するような無知(男女共通)など、面接を通じて索漠たる若者の今日的状況に直面した私は、関連単語である「若者」や「採用」や「現在」という概念にすら嫌気がさし、もはやこれまで、会社をたたんでの隠居すら脳裏にひらめいたのであったが、そこに天啓があり、採用に若者に限るべからず、汝のごとき中高年に眼を向けよ。そうか、その手があったかと早速、ハローワークに電話をし、熟年者に限ってのご紹介をお願いすると、思いがけなく多くの方から応募を受け、履歴書を読むと、年齢は若くて五十代半ば、ベテランの方は七十過ぎの方もめずらしくなく、三十年以上の人生を企業で過ごし、リストラ、けんか、行き詰まり、野心、理由はそれぞれでしょうが数社を渡り歩き、なおかつ「職場は神聖にして、楽しむところ」など、くじけずに、会社人生の奥義をつかむ人あり、「最後の勤め先としてSAPに託したく」と斎藤別当実盛のような覚悟ある方もあり、写真を見ると苦労のせいか、いずれも顔に深いしわが刻まれ、でも目には執念の力があり、なんだか自分自身の人生を見ているようで、相手の状況が一瞬で理解ができ、「そうか、そうか。大変だったよね」と会う前から強い親しみを感ずるのであった。お会いしてみると、意地悪な上司と愚かな経営者、ライバルに勝った感涙、不当な評価、不運な巡り合わせ、相次ぐ倒産などの話になり、そういうことには私も覚えがある、それは大変だったね、と相槌を打つうちに、旧友のような雰囲気となり、こうなると面接というより同窓会、「ビールでも飲みに行きましょうか」と誘いたくなる。中には、数年続く浪人暮らし、人恋しいのか、ひとと話すことがうれしくて、何十年前の新規の顧客獲得をまるで昨日のことのように自慢ながらに、延々と私に報告をし、これもまた十年も前の、役員会の内紛を事細かに教えてくれ、癖なんでしょうか、専務派の銀行抱き込みなど秘密の話になると、あたりを見回し、声も潜め、わが社の女子社員がお茶をかえに入室すると急に話をやめ、かような陰謀話が小部屋で交わされていくうちに、気のせいか、SAPも普通の会社らしくなり、社内が生き生きとしてきた。こうなると、「いっそ、全とっかえするか」という気も起きてくる。高齢者と侮ってはならない、私は65歳で、若者からは、なんだ、年寄りジャン、とか言われるかもしれないが、そんなに若いころと変わってないのである。確かにしわ、シミ、たるみ、抜け毛、加齢臭など身体的な変化はあったとしても、精神的にはほとんど若いころと変わりなく、ま、以前ほど異性に関心がなくなってきて、皮一枚は残すのみとなり、この皮一枚がなかなか厄介で、しかしそれはそれとして、記憶力が確かに少し衰え、特に短期記憶というのだろうが、ちょっと前のことが思い出せなく、何しにコンビニに来たのか、何しに台所に来たのか、何しにトイレに来たのか、何しに会社に来たのか、ちょっと思い出せないこともあり、また中期記憶もあやふやとなり、十年前に人気があった俳優、歌手など全く思い出せないし、それと手先の動きが鈍くなって、小銭入れの十円玉、一円玉、レジ前で取り出すのに骨が折れ店員を焦らしてしまい、靴ひもを結ぶのも若いころの3倍くらい時間がかかっているような気がする。朝起きると目がかすんで、2,30分くらいは物がはっきりとは見えず、一方で滑舌が怪しくなり、人に何度も聞き返され、自分でも何を言っているのか理解できてないこともあり、酒は弱くなり、小便は近くなりかつ我慢がしきれなく油断していると結露する場合があるし、何事も短気となり、『もうやめた』とやけになりがちなところなど、年を取ってくると、そんなことも多少はあるけれど、いずれにせよ、たいした問題ではないのである。私を理解し、助けてくれる人がたくさんいそうで、希望が湧いてきたのである。